下肢静脈瘤の手術
下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤とは足の静脈が太くなって瘤(こぶ)状に浮き出て見えるようになった状態をいいます。静脈瘤が脚に起こりやすいのは、足が心臓から遠い位置にあることや、人が立って生活していることが関係しています。足の静脈の中の血液が心臓に戻るには、重力に逆らって上昇しなければなりません。その役目を「静脈弁」と「ふくらはぎの筋肉」が担っています。弁の機能が悪くなったり、筋肉のポンプ作用が落ちたりすることで静脈が膨れやすくなります。これが下肢静脈瘤(こぶ)です。下肢静脈瘤は男女関係なくなりますが、女性の方が2~3倍多いと言われています。誘因として立ち仕事や加齢、女性ですと妊娠・出産が挙げられます。また、下肢静脈瘤ができやすい遺伝的要素や、肥満、便秘などの生活習慣病との関連も言われています。
静脈瘤の症状、種類・下肢の静脈が行ったり来たりになるので、血管が浮き出る、だるい、むくむ、痛い、こむら返りをおこす、などの症状が現れます。長期間放置しますと、皮膚に炎症が起こり、色素沈着、湿疹、潰瘍などが出ることもあります。静脈瘤には大きく分けて4つの種類があります(図1)。
図1.下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤の治療
下肢静脈瘤は全ての方に手術が必要となる病気ではありません。症状、検査をもとにして最適な予防・治療法を選択することが大切です。近年は細いカテーテルを静脈内に挿入し、レーザーあるいは高周波による熱で静脈を内側から焼灼する血管内治療が主流となっています(図2)。日帰りで手術可能です。
稀ではありますが、血管内治療の最も重篤な合併症に肺動脈血栓塞栓症が挙げられます。この発生頻度は0.1~0.2%と言われています。静脈を焼灼した断端から血栓が深部静脈(下肢で最も重要な静脈)に伸展することがありますが、ほとんどが術後1か月程度で消失します。しかし、この血栓が心臓、肺へ流れていくと急な呼吸困難に陥り、生命にかかわる危険性があります。そのため、万一に際しての対応ができる体制であることが大切です。
図2.血管内治療用機器
まれに湿疹ができたり、皮膚が破れる潰瘍(かいよう)ができ重症になることがあります。このような方は、できるだけ早く専門の病院を受診されることをお勧めいたします。

- 下肢静脈瘤は以下のような病気の原因とはなりません!
- 血のかたまりが飛んで
脳梗塞や心筋梗塞をおこす - エコノミークラス症候群になる
- 血管のコブが破裂する
- 足の切断が必要になる
しかし、足の症状は変形性膝関節症や脊柱管狭窄症など他の病気でもおこるので、心配な方は専門医を受診してください。
- 下肢静脈瘤の症状
- 足の血管が浮き出て見える
- ふくらはぎがだるい・重苦感
- 足のむくみ
- 足のこむら返り(つり)
- 足がほてる・熱く感じる
- 足のむずむず感・不快感
- 足のかゆみ・湿疹
- 足の色素沈着
- 足の潰瘍
- 下肢静脈瘤以外の病気の症状
- 足が冷える・冷たい
- 階段の昇り降りがつらい
- 正座ができない
- 歩くとふくらはぎがだるくなる
- 足がしびれる
- 足のうらが砂利を踏んでいるよう
- 冬になると足がかゆい
日本人では15歳以上の男女の43%、30歳以上では62%もの人に静脈瘤が認められたとの報告もあります[※1]。
40歳以上を対象とした調査[※2]では、全体で8.6%(男性3.8%、女性11.3%)に認められ、患者数は1000万人以上と推定されます。
また、出産経験のある女性の2人に1人、約半数の方が発症するというデータ[※3]もあり、下肢静脈瘤はまだまだ認知はされていませんが、実は身近な病気なのです。
年齢 | 下肢静脈瘤の割合 |
15歳〜29歳 | 13% |
30歳〜49歳 | 55% |
50歳〜69歳 | 61% |
79歳以上 | 75% |
全体 | 43%(274/632) |
出産経験のある成人女性の2人に1人が発症する
※2 小西ら 2005年 西予地区コホート研究(愛媛県西部の1市5町の40歳以上の住民を対象として愛媛大学公衆衛生学教室 小西正光教授によって2002年から勧められている調査)脳卒中および心筋梗塞既往者を除外した9,123人(男性3,302人、女性5,821人、平均年齢62.4歳)における「下肢表面が盛り上がって蛇行している血管で、かつ起立すると目立つもの」と定義された静脈瘤(表在性静脈瘤:伏在、側枝、網目の一部と考えられる)の出現頻度です。
※3 平井正文,牧篤彦,早川直和:妊娠と静脈瘤 静脈学:255-261, 1997
遺伝性があり、両親とも下肢静脈瘤の場合には将来的にはその子供も90%発症するというデータもあります[※4]。
妊娠時にはホルモンの影響により静脈が柔らかくなって弁が壊れやすくなるため発症しやすくなります。
立ち仕事、特に1ヶ所に立ってあまり動かない仕事(調理師・美容師・販売員など)は発症しやすく、特に1日10時間以上立っている人は重症化しやすい傾向にあるので注意が必要です。
また、肥満や便秘なども下肢静脈瘤を悪化させる因子です。
下肢静脈瘤の危険因子 | |
高齢者 | 女性 |
家族に遺伝 | 妊娠 |
出産歴 | 立ち仕事 |
肥満 | 便秘 |
一般的に症状があり、外科的な治療が必要になるのは伏在型静脈瘤だけであり、他の3種類は軽症であまり心配のない静脈瘤です。
タイプ | 静脈の太さ | 主な治療 |
伏在型 | ≧4mm | 外科的治療 |
即枝型 | 3-4mm | 硬化療法・弾性ストッキング |
網目状 | 1-2mm | |
くもの巣状 | ≦1mm |

ボコボコと大きい静脈瘤が目立ったり、足のだるさやむくみなどの症状がおこり、重症化して外科的な治療が必要になることがあります。
大伏在静脈瘤は最も多いタイプで、足のつけ根の静脈弁が壊れておこり、膝の内側に静脈瘤が目立ちます。
小伏在静脈瘤は比較的少なく、膝の後ろ側の静脈弁が壊れておこり、ふくらはぎに静脈瘤が目立ちます。

これらの静脈瘤は、「瘤(コブ)」と書きますが、細い静脈なのでコブ状ではありません。通常、症状はなく、また重症化しないので基本的には治療の必要のない静脈瘤です。
しかし、外見が気になる方の場合は、硬化療法や体外からのレーザー治療(保険適用外)で治療を行うこともあります。

しかし、一生涯悪くなり続けるわけではなく、60歳前後をピークにその後はあまり悪化しなくなると言われています。したがって、高齢の方はあまり心配ありませんが、40-50歳の方は早めに医療機関を受診することをお勧めします。
重症化すると湿疹や脂肪皮膚硬化症などの「うっ滞性皮膚炎」を合併します。さらに悪化すると「潰瘍」になってしまいます。
うっ滞性皮膚炎や潰瘍を合併しても治療をすることはできますが、回復が長引いたり、皮膚炎の跡が残ったりしますので、できればうっ滞性皮膚炎をおこす前に治療を受けた方が良いでしょう。
治療が必要な場合は、うっ滞性皮膚炎がおこっている場合か、静脈瘤による症状があってつらい場合、あるいはご本人が外見が気になる場合の3つです。
高齢の方で症状がなく、見た目が気にならない場合は特に治療の必要はなく、弾性ストッキングを履く必要もありませんが、症状があるなど、気になる場合には専門の医療機関を受診しましょう。
あわてて受診する必要はありませんので、心配な場合は信頼できる医療機関を受診してください。
- 治療が必要な3つの場合
- 1.うっ滞性皮膚炎
- 2.症状があってつらい
- 3.外見が気になる
むくみとは、皮膚の下の皮下脂肪に余分な水分がたまった状態です。日常生活では靴下の跡が残ったり、夕方にブーツが履きにくくなることで気がつきます。


むくみの原因となる病気や症状 | |
1.肝硬変 | 7.慢性静脈不全 |
2.月経前浮腫 | 8.下肢静脈瘤 |
3.妊娠中毒 | 9.深部静脈血栓症 |
4.腎不全 | 10.脚気 |
5.心不全 | 11.貧血 |
6.甲状腺機能低下症 |
むくみが急におこった場合、朝起きてもむくんだままの場合や手や足もむくむ場合は全身的な病気による可能性があるので放置せずに必ず医療機関を受診しましょう。