インフルエンザに対する漢方薬
[2025.01.22]
◯麻黄湯(まおうとう)No.27
悪寒がして発熱,筋肉痛,関節痛などがあることに加えて,発汗がない場合に適応になる.ぞくぞくとした寒気がして,「早く治したいから」とか,「インフルエンザが心配だから」といった受診理由で,症状出現後すぐに(0 〜1 日)来院する症例が典型であり,発症直後の発汗がない短期間(1 〜2 日)に使用されることが多い.このことは,抗インフルエンザ薬が症状出現の48 時間以内に使用されることと類似している.
(代表的な漢方薬の葛根湯も悪寒があり,発汗がない場合に用いられる.麻黄湯でみられる筋肉痛や関節痛はなく,項のこわばりが目立つ場合に用いる.当科では風邪,インフルエンザに対して葛根湯の使用頻度はそれほど高くない)
◯大青竜湯(だいせいりゅうとう)(麻黄湯エキスNo.27+ 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)エキスNo.28)
麻黄湯と同様に,悪寒,発熱,関節痛があり,発汗がないことに加え,さらに,口渇がある,もしくは,激しい症状のためにじっと寝ていられないほどつらいと訴える場合に適応になる.大青竜湯のエキス剤は存在しないため,麻黄湯エキス+ 越婢加朮湯エキスで代用する.麻黄湯の症状+ α(口渇もしくは,激しくつらい症状)がある場合は,大青竜湯で治療すべきである.
◯桂枝二越婢 一湯(けいしにえっぴいっとう)
(桂枝 湯(けいしとう)エキスNo.45+ 越婢加朮湯エキスNo.28)
すでに発汗がある場合に適応になる.必ず,触診してわずかな発汗も見逃さないようにする.桂枝二越婢一湯は,「悪寒→発熱」タイプの経過中で,悪寒が少なくなり,発熱が主体となって,口渇があり,発汗している状態が典型である.したがって,風邪をひいて様子をみていたが,2 〜3 日しても改善しないと受診する症例も多く,なかには,7 日ほど経過した症例にも適応となる場合もある.当科では,桂枝二越婢一湯を急性熱性疾患に頻用しており,前回も紹介した発熱・風邪症状で当科を臨時受診した当院職員の調査では,桂枝二越婢一湯は約2 割に処方されていた7).インフルエンザに限らず,風邪に対しても頻用する処方である.
桂枝二越婢一湯のエキス剤もないため,桂枝湯エキス+ 越婢加朮湯エキスで代用する.
◯麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)No.127
前回紹介した「悪寒→冷え」タイプの場合に用いる.インフルエンザでは闘病反応が強いことが一般的であるが,高齢者や慢性疾患のある患者では,必要な温熱産生ができずに自覚的に熱感を伴わない,青白い顔をして「冷え」と「倦怠感」が主体である症例も存在する.前号を参考に,「悪寒→冷え」タイプの症例を見逃さないようにしてほしい.
漢方医のもう一言:今回紹介した漢方薬を理解するうえで,重要な生薬として麻黄・桂皮・芍薬・石膏がある(表2).
麻黄と桂皮は共同で発汗を促す作用がある8).芍薬は,過度の発汗を防ぐ作用があり8),葛根湯や桂枝二越婢一湯に含まれる.このブレーキ役の働きをする芍薬が含まれることが,葛根湯は,幅広く用いても間違いが少ない理由である.逆に,麻黄湯や大青竜湯は,芍薬がなく発汗作用が強い.発汗がなく,悪寒や症状が強い症例に限って使用する.また石膏には,体内にこもった熱を冷ます作用があり8),大青竜湯や桂枝二越婢一湯に含まれる.口渇があることが,石膏を含む漢方薬の使用目標になっている.
麻黄と桂皮は共同で発汗を促す作用がある8).芍薬は,過度の発汗を防ぐ作用があり8),葛根湯や桂枝二越婢一湯に含まれる.このブレーキ役の働きをする芍薬が含まれることが,葛根湯は,幅広く用いても間違いが少ない理由である.逆に,麻黄湯や大青竜湯は,芍薬がなく発汗作用が強い.発汗がなく,悪寒や症状が強い症例に限って使用する.また石膏には,体内にこもった熱を冷ます作用があり8),大青竜湯や桂枝二越婢一湯に含まれる.口渇があることが,石膏を含む漢方薬の使用目標になっている.
効果的な服用方法と養生
漢方薬は体を温めて,発汗させることで治癒を促す.たとえ,適切な漢方薬を投与しても服用方法や養生を間違えると十分に効果を発揮できないため,効果的な服用方法と正しい養生を手間を惜しまずに指導する必要がある.まず,漢方エキス製剤を飲む場合には,必ずお湯で溶いて内服する.
また,3 包分3 毎食前と定期的に内服させるのではなく,1 回の服用で発汗がない場合には,発汗があるまで2 〜3 時間おきに間隔を詰めて内服してもらう.効果を高めたいときは生姜をすりおろしたものをひとつまみほど加えて服用するとよい.また,体を温めて安静に保ち,きちんと養生することが大切である.布団で覆ってしっかり寝る,お粥やうどんなど温かい消化しやすい物を食べるように指導する.