片頭痛
片頭痛は、発作性にズキズキと波打つように痛む頭痛です。頭の片側を意味する偏頭痛と記載されることもありますが、学術書では片頭痛が多いようです。
片頭痛は、ストレス、低気圧や天候、生活リズムの変化、疲労、特定の食品など誘因は個々に異なります(図1)。
片頭痛は脳の血管が急激に拡張することで発症します。トリプタン系薬剤の適応病態です。2021年から片頭痛に特化した新しい作用の予防薬(注射剤)が開発されました。使用制限がありますので、かかりつけ医に相談してください。
漢方医療は、頭痛の随伴症状から漢方病理を想定して適切な方剤を選びます。
2.呉茱萸(ゴシュユ)を含む方剤
片頭痛は、吐き気を伴うことから痰飲(タンイン)や気逆(キギャク 胃気上逆)の病態を伴います。痰厥(タンケツ)頭痛と称されます。
これは、呉茱萸(ゴシュユ:図2)の適応になります。胃気上逆を軽減する降逆止嘔(コウギャクシオウ)と温めて痛みを止める温中散寒止痛の生薬です。
2.1)呉茱萸湯(ゴシュユトウ)は、片頭痛に用いられる代表的な方剤です。冷えと胃もたれ、吐き気、肩こりを伴う激しい頭痛に適します。本方は肩や首筋がこる緊張型頭痛やしゃっくりにも用いられます。
本方は吐き気を軽減する呉茱萸と生姜(ショウキョウ)を含む散寒剤です(図3)。
呉茱萸湯には片頭痛の発作予防効果があります。
呉茱萸湯(28日投与)は、片頭痛患者の頭痛発作頻度、自覚症状スコア値を対照群(片頭痛薬・塩酸ロメリジン投与群)より有意に改善した。また頭痛発作時に頓用するトリブタン系薬剤の服用量も対照群より少なかった。
ランダム化比較試験験 (cross over) 痛みと漢方. 2006; 16: 30-39.
上記以外に呉茱萸湯と当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)との併用で片頭痛を軽減した報告もあります。
2.2)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)も片頭痛や前兆となる閃光暗点に応用されています。
本方は、全身や手足の冷えと痛み(頭痛、腹痛、月経痛、腰痛)としもやけに頻用されます。呉茱萸や当帰(トウキ)や細辛(サイシン)で温めて冷えによる痛みを改善させる方剤です。
3.利水剤(リスイザイ)
片頭痛の誘因には気圧の変化や曇天や雨があると言われていますので、天気痛や低気圧頭痛の病態を含みます。
3.1)五苓散(ゴレイサン)は、雨が降る前に増悪する低気圧頭痛に用いられます。また本方は、閃光暗点発作に有効であることが報告されています(漢方と最新治療. 2000年)。
本方は、二日酔いに似た症状(頭痛、吐き気、口渴、尿量減少)を伴う時に用いられる利水剤です。
3.2) 苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)も低気圧頭痛に用いられます。頭痛、動悸、発作性のぼせ、立ちくらみなど水滞と気逆(キギャク)症状に使用されます。本方に含まれる桂皮と甘草の組み合わせが気逆の軽減に寄与すると考えられています。
本方は五苓散より冷え症傾向で体力低下して午前中は不調な人に適します。
4.理気(リキ)降気剤(コウキザイ)
片頭痛の誘因にはストレスも関与しています。このことから片頭痛には、気滞(キタイ)や気逆も関与する場合があります。
4.1)柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)と当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)の併用によって、閃光暗点を伴う片頭痛を軽減できた報告があります。
柴胡桂枝乾姜湯と当帰芍薬散の併用は、疲労時に出現する閃光暗点を前兆とする片頭痛を軽減した。
漢方の臨床. 2012; 59: 1253-1261.
柴胡桂枝乾姜湯は、冷えのぼせ、心煩(不安、胸苦しさ)、不眠、動悸、頭部の発汗を伴う頭痛に適します。
本方は、理気薬(リキヤク)の柴胡(サイコ)と安神薬(アンシンヤク)の牡蛎(ボレイ)と桂皮と甘草の降気の薬対を含みます。
この症例報告では足が冷えて生理不順があるので補血活血(ホケツカッケツ)利水剤の当帰芍薬散が併用されたようです。
4.2)釣藤散(チョウトウサン)は、のぼせ、めまいを伴う緊張型頭痛や片頭痛に用いられる熄風剤(ソクフウザイ≒理気降気剤)です。高血圧・動脈硬化傾向の中高年の頭痛に適します。
4.3)抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)は、いらだち、眼痛、背中の張りを伴う頭痛に用いられています。釣藤散と同様に釣藤鈎(チョウトウコウ)と化痰薬の陳皮と半夏を含む理気熄風化痰剤です。
4.4)桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)も冷え症・胃腸虚弱者の片頭痛に適します。桂皮と甘草の降気の薬対を含む補気利水剤です。
5.活血剤(カッケツザイ)
片頭痛は性周期と関連があります。前項で考えた気滞や気逆は瘀血(オケツ)を誘発しますので、片頭痛には活血理気剤が適する病態があると考えられます。
5.1)桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)は、肩こり、便秘を伴う片頭痛を軽減した報告があります。眼圧が高いのでピロカルピン点眼薬と併用されています。
本方は、活血薬の桃仁(トウニン)大黄(ダイオウ)と桂皮と甘草を含む活血降気・瀉下薬剤です。
5.2)加味逍遙散(カミショウヨウサン)は、片頭痛の前兆になる閃光暗点発作に用いられています。本方は、頻用される活血補血・理気降気剤です。
6.その他
川芎茶調散(センキュウチャチョウサン)は頭痛専門薬です。かぜの頭痛や片頭痛や肩こりを伴う緊張型頭痛、更年期障碍や冷え症傾向、抑うつ傾向を伴う不定愁訴の慢性頭痛にも使用されています。