睡眠時無呼吸症候群
眠時無呼吸症候群とは文字通り寝ている間に何回も呼吸が止まる病気です。英語では Sleep Apnea Syndromeといって、頭文字をとって 「SAS(サス)」と呼ばれています。睡眠中、平均して1時間に5回以上、それぞれ10秒以上呼吸が止まる場合は、この症候群の可能性があります。
SASは1970年代あたりから世界的に認識されるようになりました。日本でも2003年の山陽新幹線の運転士の居眠りでにわかに注目され、広く一般の方にも知られるようになりました。また2012年に群馬県藤岡市の関越自動車道で起きた高速ツアーバスの事故を記憶されている方も多いことと思います。バスが高速道路脇の壁に衝突し、乗客7名が死亡、39名が重軽傷を負った大事故です。バス会社の労働基準における法令違反と同時に、運転手にSASの症状が確認されたことでも注目が集まりました。
我が国におけるSASの罹患者数は実に300万人を越えると言われ、もはや国民病と言っても過言ではありませんが、高血圧やがんなどの疾患に比べると認知度は決して高くなく、また、その診断や治療が呼吸器科、精神科、耳鼻咽喉科などの専門領域に渡るために、患者さんはどこに受診すればよいのか分らずにその病気を放置していることが往々にあります。また、いびきなどの前兆以外に自覚症状に乏しいこともこの疾患が未だ放置されていることの原因でもあります。
しかし近年、SASの診断技術が進み、SASの病態解明、治療法の確立に加え種々の循環器疾患(高血圧、虚血性心疾患、不整脈、脳血管障害、大動脈解離、など)との関連が明らかになってきて、循環器疾患診療においても極めて重要な位置を占めるようになってきました。SAS患者における高血圧、心疾患、脳卒中の合併リスクは、健常者と比較するとなんとそれぞれ約2倍、3倍、約4倍高くなることが分かってきました。また米国で18年間にわたり経過を調べた研究では、無呼吸低呼吸指数が5以上の睡眠呼吸障害があるだけで、心血管系疾患(循環器病)による死亡リスクが5.2倍に高まることがわかっています。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症は「死の四重奏」と言われますが、最近ではこれにSASを加えて「死の五重奏」と言われることも多くなってきました。こうした考え方が確立されて、今やSASは循環器病と言っても過言ではないほど、循環器病の分野で盛んに診療と研究が行われるようになってきました。