ブルガダ(Brugada)症候群
[2024.09.17]
ブルガダ(Brugada)症候群という心疾患があります。
夜間睡眠中や食後安静時などの副交感神経緊張時に心室細動を引き起こし、失神や突然死をきたす疾患です。
典型的には、40歳台位の男性が夜間就寝中に「ウーッ」とうなり声を上げて心停止となり死亡します(ポックリ病とも呼ばれます)。
ブルガダ(Brugada)というのは、スペインの心臓病の研究者の名前で3人の兄弟(Brudada3兄弟)でこの疾患を最初に報告したため、ブルガダ症候群といわれております。心臓に関する遺伝子の異常が背景にあり、心室細動の致死的な不整脈の発作を引き起こす疾患です。
ブルガダ症候群は、不整脈の発作により突然死を引き起こすことがあり、突然死の約10%を占めると考えられております。
ブルガダ症候群の患者さんには、発作が起こらないときにも、特徴的な心電図の波形がみられます。ブルガダ型心電図と呼ばれる波形です。
ブルガダ型心電図には心電図の胸部誘導(V1~V3)において右脚ブロック型波様波形とST上昇を認めます。
ブルガダ型心電図には、3つのタイプがあります。coved型(type1)とsaddle back型(type2、type3)です。このうち、致死的な心室細動を起こすリスクが高いのは、主としてtype1のcoved型の心電図波形を呈する人です。
ちなみに、coveというのは「入り江」という意味で、saddle backというのは「馬の背の鞍」という意味で、心電図の波形がこれらに似ていることから名づけられております。
しかし、ブルガダ型心電図がみられる患者さんのうち、致死的な不整脈の発作を引き起こす真のブルガダ症候群の患者さんは一部です。
ブルガダ型心電図は日本人などのアジア人に多くみられ、日本では成人の約1%にブルガダ型心電図がみられます。
ですので、健診でブルガダ型心電図がみられることを指摘されたとしても、多くの人は心配ありません。
ブルガダ型心電図がみられる患者さんのうちで、致死的な心室細動により突然死を引き起こすリスクの高い人には、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みが適応になります。ハイリスクの方には、薬物療法は突然死の予防には有効ではなく、ICD治療のみが有効です。
このため、この突然死のハイリスクを評価することが必要になります。
症状がある方の場合:
過去に心室細動の不整脈の発作がとらえられている(AEDなどによる蘇生を受けられたことのある)方には、ICDの植え込みが絶対的な適応となります。
失神やけいれんや夜間苦悶様呼吸を伴う場合にも、心室性不整脈によるものが強く疑われるためICDによる治療の適応になります。
原因不明の失神に対しては、植え込み型ループレコーダー(長期間の心電図によるモニターを行う)も適応になりえます。
無症状の方の場合:
type1(coved型)の心電図波形の方で、40歳台以下で突然死をされた方がいる家族歴がある方、70歳未満の男性の方、心筋Naチャネル遺伝子(SCN5A遺伝子)の異常が認められる方(ただしこの遺伝子の検査は保険適応外)、はハイリスクと考えられます。ハイリスクと考えられる方の場合には、心室細動が誘発されるかどうかを検査する電気生理学的検査の適応となります。これらにより、ICD治療の適応を判断します。
ブルガダ型心電図や症状やリスクからブルガダ症候群が疑われる方は、発熱により症状が悪化することがあるので、発熱時にはすみやかな解熱が必要です。
ただし、ブルガダ症候群は突然死をきたす疾患ではありますが、症状が無い方の場合での突然死の発生率は年間に0.5%以下と低く、加齢により発生頻度はさらに下がるため、基本的に予後は良好であり、必要以上に恐怖心をもつ必要はありません。